【体験談】塾講師の残業代は出ない?コマ手当の落とし穴と未払い100万円の実態

体験談

「授業以外の時間は基本給に含まれているから」「準備や採点は仕事の一部だから」——そんな説明に、違和感を覚えながらも働き続けていませんか?

そんな説明を鵜呑みにして2年間、未払いのまま働き続けた人がいます。子どもの未来を支えたいという気持ちで入った職場が、気づけば違法残業の温床だったとしたら。この記事はそんな方に向けて書いています。

本記事は実際の体験談をもとにしていますが、個人・企業が特定されないよう内容を一部編集しています。

登場人物紹介

Tさん(仮名)・25歳・都内個別指導塾の正社員講師 都内の有名私立大学卒。大学1年から卒業まで個別指導塾のアルバイト講師を経験。新卒で生徒数200名規模の学習塾に正社員として入社。中学・高校生への数学・英語を担当し、教室長補佐も兼務していた。

塾講師の給与の罠——「基本給+コマ手当」で残業代が出ない仕組み

給与体系は、基本給に「コマ手当」(授業コマ数に応じた上乗せ)を加える形だった。月額の基本給は約18万円。1コマ50分の授業を担当するごとにインセンティブとして手当が加算される。給与明細を見ると、コマ手当分が上乗せされ、一見それなりの収入に見え、満足のいくものであった。

そもそも、この仕組みが「おかしい」なんて思うはずもない。大学時代のアルバイトでは、授業コマ数分だけ給与が支払われる「コマ給のみ」が当然だった。準備も採点も無給。それが塾の仕事の常識だと、4年間かけて体に覚え込んでいた。

なので、大学を卒業し正社員になって基本給が付いたとき、バイトよりずっと条件がいいと思っていた。コマ手当も上乗せされるし、これが普通の待遇だと。

しかし問題を感じたのは、その「所定労働時間」の中に詰め込まれた業務量だった。授業の準備・採点・生徒ごとの指導報告書の作成・保護者への電話対応・教室清掃・講師ミーティング——これらすべてが「基本給の範囲内」として扱われ、実際の拘束時間が8時間を大幅に超えていても追加の賃金は一切支払われない。「コマ手当があるから残業代は含まれている」と口頭で説明されていた。

※ポイント:コマ手当は残業代の代わりにはなりません

基本給+コマ手当という給与体系であっても、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた労働には割増賃金(残業代)の支払い義務があります(労働基準法第37条)。「コマ手当があるから残業代は不要」という説明は法的に誤りです。また、準備・採点・ミーティング等が会社の指示で行う業務である場合、その時間は労働時間としてカウントされます。未払い残業代は3年間遡って請求できます

準備・採点・面談は無給?塾業界に蔓延するサービス残業の実態

担当していた生徒は多い日で1日12名。授業は1コマ50分ですが、1人あたりの準備に30分、採点と報告書に20分かかります。授業以外のこうした業務だけで、1日あたり4〜5時間を費やしていた。

退勤時刻は平均21〜22時。ラッシュ期には23時を超える日もあった。タイムカードは存在していたが、「授業終了後は各自で管理」という曖昧な運用になっており、コマ以外の時間はほとんど記録されていなかった。

「先輩たちも全員同じことをしていたし、誰も疑問を持っていませんでした。それが塾の普通なんだと思っていました」

こうした状況は、塾業界では決して珍しいものではありません。
  • コマ給文化の延長で「授業以外=無給」が当たり前になる
  • 教育業界特有の「生徒のため」という責任感がブレーキになる
  • 若手中心で、労働条件を疑う文化が育たないため、同じような働き方が繰り返されやすい

しかし後から計算してみると、月の実労働時間は190〜200時間に達していました。月4〜5万円——それが毎月積み上がっていった未払い残業代。法定労働時間(月約160時間)を30〜40時間オーバーした分の残業代が、一切支払われていなかった。

これは決して特別なケースではなく、同じ働き方をしていれば誰でも起こり得る数字です。

有給消化率ゼロの現実——なぜ塾講師は「休みたい」と言えないのか

会社には就業規則上、有給休暇が存在していました。しかし実態として、2年間で一度も取得できなかった。

理由は明確。担当生徒の授業は代講が立てにくく、「休むと生徒に迷惑がかかる」というプレッシャーが常にかかっていたためである。

「有給を申請したいと上司に言ったとき、『今その時期に休める状況じゃないよね?』と言われました。それ以降、申し出ることができなくなりました」

2019年の法改正により、使用者は年10日以上の有給休暇が付与されているすべての労働者に対し、年間5日以上の有給休暇を取得させる義務があります(労働基準法第39条第7項)。この義務を果たさない場合、会社は30万円以下の罰金の対象となります。「繁忙期だから」「代わりがいないから」は、有給取得を拒否する法的な理由にはなりません。

2年間で未払い残業代が100万円超——限界のサインを見逃し続けた日々

入社から2年が経ったころ、過去の給与明細と実際の勤務時間を照らし合わせてみた。スマートフォンのスケジュールアプリに残っていた授業記録や、塾のLINEグループに残っていたメッセージのタイムスタンプをもとに計算すると、未払いの残業代は2年間で100万円を超える計算になった。

体の変化も起きていました。慢性的な頭痛と不眠。毎朝の出勤前に胃が痛むようになり、休日も「明日の授業の準備をしなければ」という焦燥感から解放されない日が続いていた。

数字としてみてみると、初めて自分がどれだけ搾取されていたかわかりました。怒りより先に、虚しさが来た。子供の成長をそばで感じられるこの仕事は好きだし、やりがいもある。わかっている。ただ、心の中の何かが崩れた気がした。

弁護士運営の退職代行で解決——100万円の未払い残業代を取り戻すまで

退職の意思を上司に伝えることを考えたが、有給申請の時と同じように「また繁忙期を理由に引き止められる」「生徒への責任感を利用される」という恐怖があった。選んだのは弁護士法人が運営する退職代行サービスだった。

申し込みの翌日には、塾への連絡がすべて完了していた。私は一切話さなくていい。それだけで、胸のつかえが取れた気がした。

退職と同時に、弁護士が未払い残業代の請求交渉を開始。証拠となる記録(スケジュールアプリ・LINEのタイムスタンプ等)を提出した結果、会社側との交渉で一定額の解決金を受け取ることができた。

退職後は転職エージェントを利用し、教育系のEdTech企業に正社員として転職。授業準備も含めてすべての業務が労働時間として認められ、残業代も正確に支払われるようになった。

塾を辞めてよかった——転職後に取り戻した「授業が好きだった気持ち」

転職後、初めて有給を取って旅行に行ったとき、「こんなに軽い気持ちで休んでいいんだ」と驚いた。

塾にいたとき、生徒のことが好きで、教えることも好きだった。でもいつの間にか、授業が怖くなっていたように思える。準備が終わらなかったらどうしよう、採点が間に合わなかったらどうしようと。

教えることへの情熱は、正しい環境に移ったことで戻ってきた。辞めることを決める前にも、情熱はあったはずだが、あれが全てではなかったと思えるほどに。

限界なら逃げていい——それは逃げじゃなく、戦略的撤退です

「子どもの未来を守る仕事だから」「生徒に迷惑がかかるから」——そんな言葉で働き続けることを求めてくる職場は、あなたの善意を利用しています。

好きな仕事であっても、賃金が支払われなければそれは違法です。あなたが2年間タダ働きを続ける義理はありません。証拠さえあれば、退職後でも未払い残業代は請求できます。

逃げることは、弱さではありません。それは戦略的撤退です。あなたの体と時間とキャリアを守るための、正しい選択です。

まずは、今の環境が本当に普通なのかを知ることから始めてみてください。外の情報に触れるだけでも、見え方は大きく変わります。

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